物語はもう柔らかくはないーーー
ワタシは硬くなった。線維が張りめぐり、血の流れは細く曲がりくねる。それでもワタシは黙ったまま働いている。
外の生活は変わらない。朝は急ぎ足で駅へ向かい、夜は画面の光を浴びながら遅い夕食。
「まだ動ける」「最近ちょっと疲れやすいだけ」
その“ちょっと”が積み重なっていることを誰も深く考えない。ワタシはすでに硬い。血の流れは細く、予備力は少ない。健康なころなら受け止められた波も今は余裕がない。
そこへ、ひとつのきっかけ。風邪だと思っていた感染症。市販薬や鎮痛薬の服用。徹夜続きの過労。脱水。偏った栄養。健康なワタシならそれらは一時的な負担で済む。だが今は違う。線維で縛られ血流が滞るワタシには“余白”がない。
炎症は一気に広がり、壊れた細胞から酵素があふれ、解毒経路は渋滞を起こす。アンモニアが処理しきれず、皮膚が黄色く染まりはじめ、目の白い部分がくすむ。強い倦怠感。意識がぼんやりする。突然ではない。長い年月の上に乗った最後の一押し。ワタシはずっと耐えてきた。だが、もろくなった構造は小さな衝撃で崩れるかもしれない。
外の世界は昨日と同じでも内側はもう、綱の上を歩いている状態。ワタシは初めて強いサインを送るーーー劇症肝炎という叫び。
静かに進んできた年月がある日、急に表面へ浮かび上がる。脅すつもりはなかったが、もう限界が近いことを知らせたかった…
ワタシの細胞が強い炎症で壊れると、本来は細胞の中に閉じ込められている酵素が血液中に漏れ出す。それがASTやALTの急上昇として現れる。これは「肝臓が傷ついている」という証拠。壊れた細胞の分だけ解毒や代謝を担当する働き手が減り、ワタシの機能は一斉に滞る。
・アンモニアを尿素に変える働き ・薬を分解する酵素反応 ・ビリルビンを処理する経路
例えば、工場の作業員が突然大量に倒れ、残った少人数でラインを回している状態。処理待ちの老廃物は血液中に溜まり、アンモニアは脳へ届き、意識を曇らせる。ビリルビンは皮膚を黄色く染める。つまり「酵素があふれる」は壊れた証拠、「解毒経路の渋滞」は働き手不足の結果。静かだった臓器が数値と症状で初めて声を上げる瞬間となる…
肝硬変の上に重なった急激な炎症は命に触れる場所まで踏み込む。それでも、もしこのサインを受け取れたなら。まだ、道は完全に閉ざされてはいない。ワタシは硬くなりながらも最後まで働こうとしている。だが次の衝撃に必ず耐えられる保証はない。静かな臓器がここまで声を上げるとき…それは本当に危険なとき・・・(つづく)

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