消えた満腹サイン

脳本部。静かな会議室。視床下部課長は一枚の健康診断結果をスクリーンに映し出した。

 

【健康診断結果】

身長:170cm 体重:84kg BMI:29.1 腹囲:98cm 体脂肪率:33%

 

【血液検査】

血中レプチン:48 ng/mL

 

グレリンくんが目を丸くした🍜「えっ!レプチンさん、こんなにいるの?」

レプチンさんは少し照れながら答えた🟢「はい。私は脂肪細胞で作られるホルモンです。脂肪細胞が増えるほど、私もたくさん作られます」

 

視床下部課長が説明を始めた。👨‍🔬「レプチンは、脂肪細胞から分泌されるホルモンです。体脂肪が増えるほど、血液中のレプチンも増えていきます。つまり、この方はレプチンが不足しているわけではありません。むしろ、十分すぎるほど分泌されています」

 

ドーパミンちゃんが首をかしげた💃「じゃあ、どうして食欲は止まらないの?」

課長は静かに微笑んだ👨‍🔬「それを知るために、今日はレプチンさんの一日を追いかけてみましょう」

 

【レプチンさんの一日】

体脂肪部署。緑色の制服を着たレプチンさんが立ち上がる。

🟢「今日も出発します!「体のエネルギーは十分あります。脳本部へ満腹シグナルを届けてきます。」

脂肪細胞のみんなが送り出す🟡「よろしく!今日も頼んだよ!」

レプチンさんは血液という高速道路へ飛び乗った。赤血球たちと一緒に脳本部を目指す。しばらく進むと大きな門が見えてきた。

 

【最初の関門】

血液脳関門(Blood-Brain Barrier)脳を有害な物質から守るための厳重な関所である。

門番が声を掛ける👤「所属は?」

🟢「脂肪細胞部署です。満腹シグナルを届けに来ました」

門番は通行証を確認した👤「どうぞ」

 

ところが今日は様子が違った。門の前は大渋滞だった。レプチンさんが驚く🟢「どうしたんですか?」

門番は困った顔をした👤「最近、交通量が多すぎるんです」

 

視床下部課長が説明する👨‍🔬「レプチンさんが脳へ入りにくくなっています。肥満では血液中のレプチンは増えます。しかし、血液脳関門ではレプチンを脳へ運ぶ働きが低下することがあります。つまり、たくさん出発していても全員が脳へ到着できるとは限らないのです」

 

【脳本部で起きていた異変】

脳本部にようやく到着した。しかし視床下部課はどこか様子がおかしい。職員たちが咳き込みながら仕事をしていた。

レプチンさんが心配そうに聞いた🟢「火事ですか?」

課長は首を横に振る👨‍🔬「火事ではありません。慢性炎症です。」スクリーンに脂肪細胞の映像が映し出された。

「脂肪細胞はレプチンだけではありません。体脂肪が増えすぎると、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインという物質も多く分泌されます。これらの物質が長期間増え続けると、視床下部では弱い炎症が続くようになります。例えるなら、大火事ではありませんが毎日、小さな煙が立ち込めているような状態です。職員たちは仕事に集中できず、満腹シグナルを処理する能力が少しずつ低下していくのです」

 

【工場が止まり始めた】

その時、奥の部屋から大きな声が聞こえた。「工場が止まるぞ!」レプチンさんが中をのぞく。そこには、組み立て途中のタンパク質が山積みになっていた。

 

課長が説明する👨‍🔬「ここは小胞体。細胞の中でタンパク質を組み立てる工場です。食べ過ぎや肥満が続くと、この工場は仕事が追いつかなくなります。これを小胞体ストレスといいます。工場が混乱すると、レプチンの情報を細胞の中へ伝える装置まで正常に働かなくなってしまいます。」

 

【伝言リレー】

最後の伝言リレーで、ようやくレプチン受容体係長が報告書を受け取った。

🟢「体脂肪は十分あります。食欲を抑えてください。受信しました」

しかし、その奥では職員たちが混乱していた「次は誰に伝える?命令が来ない!伝言が途中で止まった!」

 

課長は静かに説明した👨‍🔬「レプチン受容体は入口にすぎません。その後も細胞の中では、何段階もの情報伝達が続きます。ところが慢性炎症や小胞体ストレスが続くと、この伝言リレーが途中で止まってしまうことがある。これをレプチンシグナル伝達異常といいます」

 

 【レプチンさんは悪くない】

グレリンくんが小さく聞いた🍜「じゃあ…レプチンさんは悪くないの?」

課長は力強くうなずいた👨‍🔬「その通りです。レプチンさんは毎日、一生懸命働いています。」

 

スクリーンに四つの項目が映し出された。

✅ 脂肪細胞が増え、レプチンが大量に作られる。

✅ 血液脳関門で脳へ届きにくくなる。

✅ 視床下部で慢性的な炎症が起こる。

✅ 細胞内の伝言リレーが途中で止まりやすくなる。

「これらが少しずつ積み重なることで、脳はレプチンの『もう十分です』という声を受け取りにくくなります」

 

ドーパミンちゃんが静かにつぶやいた💃「だから…私の『もう一口♡』が勝っているように見えるんだ」

課長は微笑んだ👨‍🔬「正確には違います。ドーパミンちゃんの声が大きくなったのではありません。レプチンさんの声を受け取る仕組みが弱くなってしまったのです」

 

課長は静かに立ち上がる👨‍🔬「そして、皆さんにもう一つ伝えたいことがあります。この受信システムは一度弱くなっても、生活習慣を見直すことで改善が期待できることが分かってきています」

 

スクリーンには新しい議題が映し出された。『レプチン抵抗性は改善できるのか。』静かな会議室で新たな会議が始まろうとしていた。

つづくーー